第1回 女性の不調の思い込みあるある
山崎ゆか先生と考える 女性の新しい働き方
このコラムは産科麻酔科医としてご活躍されていて、ご自身も5人の子供を育てている、山崎ゆか先生と女性の働き方について考えていきます。第1回は女性は避けて通ることができない「生理」について、先生が知っておいてほしいと思っていらっしゃることをお聞きしました。
女性には毎月、出産に備える仕組みとしての生理があり、これは自然なことです。しかし現代女性は、初潮が早まり、初産年齢が上がり、一生の間に出産する回数が減るなどの生活スタイルの変化によって、一生の間に経験する生理の回数は昔の女性の約9倍に増えてしまっています。
生理は自然なものだから、生理痛は我慢するもので、痛み止めも使っちゃいけない・・という思い込みがありませんか?
会社に行けないくらいの下腹部の痛みやめまい、経血が多くて服や椅子を汚してしまうとか、生理のまつわる症状で毎月、仕事にも影響が出て困っているのに、「この程度はみんな当たり前に受け入れていること」と思い込み、ひたすら我慢をし続けている人は意外に多いようです。
実は、生理そのものは自然なものでも、生活に支障が出るほどの症状があること自体が、女性の将来の健康に悪影響を及ぼす可能性が高いことも知っていただきたいです。
生活に支障が出るような痛みや出血などがある場合、それ自体に“月経困難症”という診断名がつき、症状の程度に関係なく治療の対象になります。
早く治療を始めることで、症状が進んで別の病気に進展するのも防げます。
さらに気をつけたいのは、今の症状の背景にすでに別の病気が潜んでいる場合です。
例えば月経困難症の原因でよくみられる子宮内膜症や子宮筋腫は、不妊の原因にもなりますし、こういった症状が卵巣がんや子宮がんの発見につながる可能性もあります。
ですから、“つらいのは当たり前”と言わず、まず婦人科に相談してほしいです。
そんなつらい症状には治療法があるのですが、そもそも治療できることを知らずに働いている女性も少なくありません。
生理に伴う不調があると答えた女性は74%。半数以上の女性が毎月生理に伴う痛みや不調に悩まされ、仕事の効率が落ちると実感しています。
仕事への影響は人によってさまざまで、寝込んでしまい出社できないほどの人もいれば、休まないが遅刻や早退をする日がある人もいます。
いつも通りに出社しても、ミスが増える、集中力が落ちる、コミュニケーションがうまくいかない、プレゼンなどの際に力を発揮できないなど、多くの女性はなんらかの支障を感じています。
働く女性を対象にした別の調査では、生理中はパフォーマンスは約4割落ち、平均すると毎月約5日間影響を受けると答えています。
一年に換算すると女性は約2か月も4割ペースダウンして暮らしていると言えます。
ですが、ほとんどの人は休まず出勤していますので、生産性の低下についてはあまり職場ではこれまで意識されてきませんでした。
今は就労人口の約半数が女性になり、出産、育児、家事により離脱することなく働き続ける女性が増えてきたことで、社会や企業で、生理に伴う不調の影響への重要性が高まってきており、生理に伴う社会の経済的負担は年間約6,828億円で、そのうち約5,000億円が労働損失と算出されています。
女性はつらい症状を我慢するのではなく、治療することで格段に生活の質が上がり、これまで諦めてきたことに挑戦できるようになります。ですから、一度、婦人科に相談してみてください。
また、企業は制度や労働環境を整えるなど、女性が気楽に受診できるような工夫を検討してみるのも一つです。
女性の健康課題に対応するときのポイントは、個人に対して働きかけるのではなく、女性従業員全員に対し、企業全体として“女性特有の不調は従業員のウェルビーイングを損なう大変重要な問題だと認識している。受診するなどの対策をとってほしい。困ったことがあったら相談してほしい”といったメッセージを、普段から出しておくことです。
そのうえで、もし、女性従業員との個別のやりとりや話し合いが必要な場合には、男性の管理職が直接対応するより、現場で実際にやり取りをしてくれるリーダーのような女性に協力をお願いする方が、相談する女性も構えずに話がしやすくなります。
もし直接、不調を抱える女性従業員から相談を受けた場合は、産業医や婦人科専門医、この分野に詳しい専門相談窓口などにしっかりとつないであげることも大切です。
日本麻酔科学会専門医
日本麻酔科学会指導医
麻酔科標榜医
三男二女、5児の子育てをしながら産科麻酔科医として活躍中
産科麻酔科医と5人のベテランママの観点から月経、出産、子育てなど
女性ならではのライフイベントをより快適に過ごせる方法をお話しします。
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